IRA(Inflation Reduction Act、インフレ抑制法)は、2022年8月にバイデン米大統領が署名した米国の包括的気候変動・エネルギー対策法で、10年間で約3,690億ドル(約53兆円)規模の気候・エネルギー投資を実施します。蓄電池・再エネ・EV・水素等の脱炭素技術製造に巨額の生産税額控除(PTC)・投資税額控除(ITC)を提供し、世界のクリーンエネルギーサプライチェーンを米国に引き寄せる戦略的法律として注目されています。

蓄電池に関連する主要条項は、(1) Section 45X 高度製造生産税控除(電池セル35ドル/kWh+電池モジュール10ドル/kWh、米国生産品が対象)、(2) Section 48 投資税額控除(蓄電プロジェクトに最大30%税控除、賃金・徒弟プログラム要件で40-50%まで上乗せ可能)、(3) Section 30D EV購入税控除(最大7,500ドル、北米組立・FTA国電池材料要件あり)、です。これにより米国内で電池工場建設ラッシュが発生し、Tesla・GM・Ford・Stellantis等が大型電池工場(ギガファクトリー)の建設・拡張を発表しています。

日本企業への影響は両面です。プラス面では、トヨタ・日産・パナソニック・東芝・GSユアサ等が米国生産拠点設立により IRA 補助金を受給可能。一方マイナス面では、(a) 中国材料・部材を一定割合以上含む電池は税控除対象外(Foreign Entity of Concern:FEOC 規制)、(b) 米国内供給網構築のリードタイムが長い、(c) 日本国内の電池産業空洞化リスク、があります。日本政府は経済安全保障推進法で対応を進めていますが、IRA との規模格差は明白です。

2030年に向けて、IRA はトランプ政権下での見直し議論が継続するものの、既に投じられた投資・建設中工場・地方雇用への波及で完全廃止は困難視されています。日本のBESS事業者にとって、IRA・EU 電池規則・REPowerEU・経済安全保障推進法を含む各国政策動向のフォローと、グローバルサプライチェーン戦略の精緻化が、中長期競争力確保の必須要件です。

主な出典・参考情報

  • 経済産業省 資源エネルギー庁 公開資料
  • OCCTO 広域系統運用情報
  • 各社IR資料・プレスリリース
  • 業界団体資料(電池工業会、JESIA、JPEA、JWPA等)
  • BloombergNEF・IHS Markit S&P Global・Wood Mackenzie 等の調査レポート