電池サプライチェーン(Battery Supply Chain)は、リチウムイオン電池等の蓄電池が生産・流通・利用・廃棄・リサイクルされる一連の価値連鎖を指し、原材料採掘から製造・物流・販売・運用・回収・リサイクルまでの全段階を含む。EV・蓄電池の急速な普及に伴い、グローバル経済・経済安全保障・気候変動対策の交点に位置する戦略的に重要な領域となっている。

電池サプライチェーンの主要階層は、(1)原材料採掘:リチウム(豪州・チリ・アルゼンチン)、ニッケル(インドネシア・フィリピン・ロシア)、コバルト(DRC・コンゴ民主共和国・インドネシア)、グラファイト(中国・モザンビーク)、マンガン、銅、アルミニウム等、(2)精錬・原料化:リチウム精錬(中国80%超)、ニッケル精錬、(3)電池材料製造:正極材(NMC、NCA、LFP)、負極材(黒鉛、シリコン)、電解液、セパレータ、(4)セル製造:CATL、BYD、LG ES、Samsung SDI、Panasonic、SK On等、(5)モジュール・パック組立:セルメーカーまたは独立系、(6)システム統合:BMS、PCS、コンテナ統合、(7)流通・物流:海上輸送、危険物輸送、通関、(8)販売・設置:EPC、O&M、(9)運用:ユーザー(EV、蓄電所)、(10)リユース:セカンドライフ用途、(11)リサイクル:素材回収、再利用、で構成される。

サプライチェーンの地政学的特徴は、(a)中国の支配的地位:精錬で80〜90%、セル製造で60%超、正極材で70%、負極材で90%超のシェア、(b)特定地域への原材料偏在:DRCのコバルト、インドネシアのニッケル、豪・南米のリチウム、(c)地政学リスク:米中対立、ロシア・ウクライナ情勢、中東情勢、(d)ESG懸念:DRCの児童労働・人権問題、インドネシアの森林破壊、(e)2024年以降の中国電池技術輸出許可制:戦略的供給制限の可能性、(f)米IRA法・EUバッテリー規則:第三国への投資シフト誘因、(g)友好国パートナーシップ:日米豪加印韓EU等の連携強化、で複雑な構造を持つ。

日本の電池サプライチェーン戦略は、(i)2022年12月の特定重要物資指定(経済安全保障推進法)、(ii)「蓄電池産業戦略」(経産省、2022年8月発表)、(iii)国内サプライチェーン強靭化補助金(2023〜2024年度、約3,316億円規模)、(iv)友好国との重要鉱物パートナーシップ(豪・米・カナダ・EU・韓国等)、(v)バッテリーパスポート制度(EU 2027年〜、日本も追随見込み)、(vi)リサイクル・リユース推進、(vii)固体電池・ナトリウムイオン電池等の次世代技術R&D、で多層的に推進されている。

蓄電所事業との関係では、(A)機器調達戦略:中国系 vs 友好国系のバランス、(B)リスク評価:地政学・ESG・経済安全保障、(C)長期事業計画:2030年代の供給リスク・コスト変動、(D)規制対応:バッテリーパスポート、リサイクル義務、(E)保険・融資:サプライチェーンリスクのバンカブル評価、(F)ESG情報開示:原材料トレーサビリティ、人権デューデリジェンス、(G)リサイクル戦略:使用済み電池の循環調達、で多面的に影響する。

グローバル展開の観点では、米国・欧州・東南アジア・中東等の海外市場展開機会、海外電池メーカー・PCSメーカー・運用事業者・インフラファンドとの戦略提携、国際標準化機関(IEC・IEEE・ISO)への参画、海外プロジェクトファイナンスの組成、各国規制(FERC・NFPA 855・EU電池規則等)への適合が、中長期事業戦略の重要要素です。日本企業の海外展開支援として、JBIC・JICA・JOGMEC等の公的機関との連携も活用が拡大しており、グローバル蓄電所市場での日本企業のプレゼンス確立が、業界の中長期成長を支えます。

主な出典・参考情報

  • 各社IR資料・有価証券報告書・統合報告書
  • 業界団体資料(JESIA、JPEA、JWPA、電池工業会等)
  • BloombergNEF・IHS Markit S&P Global・Wood Mackenzie等の調査レポート
  • 経済産業省・資源エネルギー庁 産業政策資料
  • IEA(国際エネルギー機関)World Energy Outlook
  • TCFD・ISSB・GRI等のサステナビリティ情報開示基準