正極(Cathode、カソード)は、電池の放電時に外部回路から電子を受け取る側の電極で、対をなす負極(アノード、Anode)とともに電池の電気化学的特性を決定する基幹要素である。リチウムイオン電池では、正極材料の選定がエネルギー密度・出力特性・サイクル寿命・コスト・安全性のすべてに直接影響を与える。

主要な正極材料は、(1)LFP(リン酸鉄リチウム、LiFePO4):3.2V、安全性・寿命・コスト優位、系統用蓄電所主流、(2)NMC(リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物):3.7V、高エネルギー密度、EV用主流、(3)NCA(リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物):3.7V、Tesla主流、(4)LCO(コバルト酸リチウム、LiCoO2):3.7V、初代リチウムイオン、現在は携帯機器用、(5)LMO(マンガン酸リチウム、LiMn2O4):3.7V、低コスト、(6)LMFP(リン酸マンガン鉄リチウム、LiMn0.5Fe0.5PO4):3.4V、LFPの後継として注目、(7)固体電解質対応新規材料:硫化物系・酸化物系・ポリマー系、で多様化している。

正極材料の主要評価指標は、(a)公称電圧(V、放電電圧プラトーの平均値)、(b)容量(mAh/g、活物質単位質量あたりのリチウム挿入容量)、(c)エネルギー密度(Wh/kg、Wh/L)、(d)パワー密度(W/kg、出力特性)、(e)サイクル寿命(80%容量維持時のサイクル数)、(f)熱安定性(DSC熱分解温度)、(g)原材料コスト(コバルト・ニッケル・リチウム価格依存度)、(h)原材料の倫理調達(コバルトのDRC問題)、(i)環境負荷(採掘CO2排出量)、で評価される。

近年のトレンドは、(i)LFP→LMFPへの段階的シフト(エネルギー密度改善)、(ii)NMC高Ni化(NMC811、NMC9.5など、コバルト削減)、(iii)固体電池正極材(高電圧化、5V系)、(iv)ナトリウムイオン電池の正極材(CATL等が開発)、(v)リサイクル正極材(再生原料の活用)、(vi)AI・機械学習による新材料探索、で技術進化が継続中。

主要正極材メーカーは、(A)日系:住友金属鉱山、田中化学研究所、戸田工業、JX金属、(B)韓国系:POSCO Future M、L&F、Ecopro BM、(C)中国系:BTR、Easpring、Ronbay Technology、Beijing Easpring、(D)車・電池メーカー内製:CATL、BYD、LG ES、Samsung SDI等、で寡占的競争となっている。蓄電所事業の機器選定では、正極材料の選定は機器サプライヤー(CATL等)の判断に依存することが多いが、化学種ごとの特性差を踏まえた事業設計(LFP優先選定)が業界標準となっている。

国際的には、IEC・IEEE等の国際標準化機関での規格策定、グローバル製造・運用事業者間の技術連携、新興市場(東南アジア・中東・アフリカ等)への展開機会拡大が進展しています。日本企業にとって、本技術領域での研究開発投資の継続、スタートアップ・大学・国立研究機関との産学連携、特許戦略・知財管理の高度化、海外実証案件への参画が、グローバル競争力確保の重要要素です。経済安全保障・サプライチェーン国産化政策の中で、本技術の戦略的位置付けは中長期的にますます重要となります。

国際的には、IEC・IEEE等の国際標準化機関での規格策定、グローバル製造・運用事業者間の技術連携、新興市場(東南アジア・中東・アフリカ等)への展開機会拡大が進展しています。日本企業にとって、本技術領域での研究開発投資の継続、スタートアップ・大学・国立研究機関との産学連携、特許戦略・知財管理の高度化、海外実証案件への参画が、グローバル競争力確保の重要要素です。経済安全保障・サプライチェーン国産化政策の中で、本技術の戦略的位置付けは中長期的にますます重要となります。

主な出典・参考情報

  • IEC(国際電気標準会議)規格群(IEC 62933、IEC 62619、IEC 61850等)
  • IEEE(米国電気電子学会)標準(IEEE 1547、IEEE 2030.5等)
  • JIS(日本産業規格)電気・電池関連規格
  • UL認証規格(UL 9540、UL 9540A、UL 1973等)
  • 各メーカー製品仕様書・技術資料
  • NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)技術ロードマップ