釘刺し試験(Nail Penetration Test、Nail Test)は、リチウムイオン電池等の安全性を評価する試験の一つで、フル充電状態のセルに金属製の釘を一定速度で貫通させ、強制的に内部短絡を発生させて、その後の電池挙動(発火、発煙、爆発、温度上昇)を観察する試験である。各国の安全規格で「最も過酷な短絡試験」の一つと位置付けられ、電池の安全設計の根本的評価手法として用いられる。

試験条件は規格により異なるが、典型的には、(1)使用する釘:直径3〜8mm、先端角30〜60°、表面ステンレス鋼または塗装鋼、(2)刺入速度:80mm/s(高速)または0.1〜10mm/s(低速)、(3)刺入位置:セル中央部または最も致命的とされる位置、(4)刺入深さ:セルを完全貫通、(5)試験後の観察:6時間以上の温度・電圧モニタリング、(6)合格基準:発火・爆発しないこと(一部規格は冷却後の安全な状態への到達まで)、と定められる。

主な国際規格・国内規格の取扱いは、(a)UN 38.3:採用しない(衝撃試験T6で類似機能)、(b)IEC 62619:オプション項目、(c)GB/T 36276(中国国家標準):必須項目、(d)GB/T 31485(中国EV電池):以前は必須、2020年改訂で削除(過度に過酷との議論)、(e)KS C 8546(韓国):必須、(f)UL 1642:採用、と国・用途で温度差がある。日本のJIS C 8714(携帯機器用リチウムイオン蓄電池)も類似試験を含む。

結果と電池化学種の関係は、(i)NMC(ニッケル・マンガン・コバルト)系:高エネルギー密度のため熱暴走リスクが高い、釘刺しで発火・爆発リスクが顕著、(ii)LFP(リン酸鉄リチウム)系:熱安定性高く、釘刺しでも温度上昇限定的・発火しにくい、(iii)固体電解質電池:発火リスクが大幅低減、安全性大幅向上が期待、で電池選定の重要評価指標となる。系統用蓄電所がLFPを主流化している主因の一つが、こうした釘刺し試験等のセル安全性で優位な点である。サプライヤー選定でメーカーの試験データ提示が事実上の必須事項となっている。

蓄電所業界では、本技術領域の継続的な進化への対応が事業競争力の決定要因です。AI・デジタルツイン基盤の活用、サイバーセキュリティ強化(IEC 62443等)、サーキュラーエコノミー対応、メーカー・第三者試験機関・業界団体との連携、国際標準化への参画が、技術上の競争力・社会的信頼・運用継続性を支える重要な戦略要素となります。

国際的には、IEC・IEEE等の国際標準化機関での規格策定、グローバル製造・運用事業者間の技術連携、新興市場(東南アジア・中東・アフリカ等)への展開機会拡大が進展しています。日本企業にとって、本技術領域での研究開発投資の継続、スタートアップ・大学・国立研究機関との産学連携、特許戦略・知財管理の高度化、海外実証案件への参画が、グローバル競争力確保の重要要素です。経済安全保障・サプライチェーン国産化政策の中で、本技術の戦略的位置付けは中長期的にますます重要となります。

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主な出典・参考情報

  • IEC(国際電気標準会議)規格群(IEC 62933、IEC 62619、IEC 61850等)
  • IEEE(米国電気電子学会)標準(IEEE 1547、IEEE 2030.5等)
  • JIS(日本産業規格)電気・電池関連規格
  • UL認証規格(UL 9540、UL 9540A、UL 1973等)
  • 各メーカー製品仕様書・技術資料
  • NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)技術ロードマップ