FRT(Fault Ride-Through:事故時運転継続)は、電力系統で短絡・地絡等の事故が発生し電圧・周波数が瞬間的に大きく変動した際でも、再エネ電源・蓄電池等のインバータ電源が系統から解列せず運転を継続する機能です。系統大量導入されたインバータ電源が事故時に一斉解列すると系統全体の不安定化を招くため、FRT能力の確保は再エネ・蓄電池の系統安定化貢献の中核要件として、各国の系統連系規程で必須化されています。

FRT機能の主要な技術要件は次の通りです。第一に、LVRT(Low Voltage Ride-Through:低電圧事故時運転継続)で、系統電圧が大きく低下(典型的に定格の20%以下まで)した状態で一定時間(数百ms〜数秒)運転継続、その後系統電圧が回復したら通常運転に復帰。第二に、HVRT(High Voltage Ride-Through:高電圧事故時運転継続)で、系統電圧が一時的に上昇(定格の130%程度まで)した状態での運転継続、HVRTは比較的近年の追加要件。第三に、ZVRT(Zero Voltage Ride-Through:零電圧事故時運転継続)で、系統電圧がゼロ近くまで低下した極端事故時の運転継続、最先端要件。第四に、周波数事故時運転継続で、周波数が瞬間的に大きく変動(典型的に47.5Hz以下や51.5Hz以上)した状態での運転継続、ROCOFリレーとの整合。第五に、系統電圧支援機能で、事故時に無効電力を供給して系統電圧回復を支援、グリッドフォーミング機能との連携。第六に、復帰後の応答で、事故終了後の電圧・周波数回復時の安定的な運転再開、リップル制御。

蓄電所事業でのFRT対応の実務的論点は多面的です。第一に、系統連系規程対応で、JEAC9701系統連系規程・各電力会社技術要件のFRT規定への適合、PCSメーカー認証・形式試験。第二に、PCS設計・選定で、FRT機能対応PCSの選定、IGBT・SiC等の素子選定、デジタル制御の高度化。第三に、系統連系協議で、電力会社協議でのFRT能力提示、保護整定値との整合確認、事故シミュレーション。第四に、運用試験・検証で、運開前の使用前自主検査・使用前安全管理審査でのFRT動作試験、定期試験での性能維持確認。第五に、新型機能との統合で、グリッドフォーミング機能・擬似慣性供給・FFR等の系統サービスとFRT機能の整合、複合機能設計。第六に、系統側変化への対応で、再エネ・インバータ電源比率増加に伴う系統慣性低下への対応、FRT要件の段階的強化。第七に、サイバーセキュリティで、FRT制御のサイバー攻撃耐性、IEC 62443・IEC 62351準拠の対策。

2030年に向けて、FRT機能は再エネ大量導入・脱炭素化加速の中で更に重要性を増します。第一に、要件の段階的強化で、ZVRT・適応型FRT・複合事故対応等の高度化、各国系統連系規程の継続改定。第二に、グリッドフォーミング機能との統合で、系統電圧・周波数を自ら作り出す制御方式とFRTの統合、慣性力供給的役割の本格化。第三に、擬似慣性・FFR等の系統サービスとの連携で、複合的な系統安定化機能の提供、新たな収益源として位置付け。第四に、AI制御の高度化で、リアルタイム系統状態解析・適応的FRT動作・最適保護整定。第五に、IEC 61400-21(風力)・IEEE 1547(分散リソース)等の国際標準の継続進化、グローバル整合性向上。第六に、サイバーセキュリティ強化で、FRT制御の改ざん防止・通信暗号化・認証機能、IEC 62443・IEC 62351準拠の継続強化。第七に、HVDC・洋上風力大規模連系での新型FRT要件、海底直流送電・自励式コンバータでの先進機能。蓄電所事業者にとって、FRT機能の精緻設計・運用は、系統安定化貢献・規制適合・新型サービス提供の基盤として、技術上の重要要素となります。

主な出典・参考情報

  • IEC(国際電気標準会議)規格群(IEC 62933、IEC 62619、IEC 61850等)
  • IEEE(米国電気電子学会)標準(IEEE 1547、IEEE 2030.5等)
  • JIS(日本産業規格)電気・電池関連規格
  • UL認証規格(UL 9540、UL 9540A、UL 1973等)
  • 各メーカー製品仕様書・技術資料
  • NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)技術ロードマップ