調整力公募は、一般送配電事業者(TSO)が、エリア内の需給調整に必要な調整力(ΔkW)を、発電・蓄電・需要側リソース事業者から公募方式で調達する制度です。需給調整市場は2021年4月1日に創設され、「需給調整市場の商品としては、2021年度に三次調整力②、2022年度に三次調整力①を導入してまいりました。2024年度からは一次調整力・二次調整力①・二次調整力②を導入し、全ての商品区分で市場取引を開始しました」(EPRX)という経過をたどりました。調整力公募は、需給調整市場の創設(2021年4月)より前から、一般送配電事業者が必要な調整力を確保する主要な調達手段として運用されてきました。
参考として、後継の需給調整市場の商品は、一次調整力(応動10秒以内・オフライン監視は30秒以内・継続5分以上)/二次調整力①(S-FRR)応動5分以内・継続30分/二次調整力②(FRR)応動5分以内・継続30分/三次調整力①(RR)応動15分以内・継続30分/三次調整力②(RR-FIT)応動60分以内・継続30分(2026年3月14日受渡分以降の値)に区分されます。三次調整力②は2025年3月14日受渡分から応動時間が45分以内から60分以内に、継続時間が3時間から30分に、三次調整力①は2026年3月14日受渡分(3月13日取引分)から継続時間が3時間から30分に見直されました。需給調整市場の約定方式はマルチプライスオークションです。取引規程別冊(三次調整力②)第32条は「本市場における取引は,マルチプライスオークションとし,全国一市場で,商品ブロックごとに,必要量を充足するまで,調達費用が最小となるように」約定するとし、順序を「(1) ΔkWの入札単価の安いものから約定 (2) ΔkWの入札単価が同値の場合,経由する連系線が少ないものから約定 (3) 経由する連系線数が同値の場合,系統上優先されるエリアに連系しているものから約定」と定めています。需給調整市場の決済の対象は、取引規程 第46条が定める約定料金・調整電力量料金・ペナルティ料金・売買手数料の4つです。同条は、約定料金を「約定料金は,単独発電機または各リスト・パターンごと,30分コマごとに,ΔkW約定単価にΔkW約定量(複合商品の場合は,複合ΔkW約定量)を乗じた金額を料金算定期間に亘って合計した金額とする」と定め、調整電力量料金は上げ調整電力量料金および下げ調整電力量料金で構成されるとしています。
蓄電所事業の観点では、調整力公募は重要な収益源として機能してきました。第一に、需給調整市場本格運用前の主要収益チャネルとして、複数年契約での安定収益を確保。第二に、特定エリア・特定時期の調整力ニーズに対応する個別公募で、市場参加と並行した収益機会。第三に、TSOとの長期関係構築で、需給調整市場参加時の運用ノウハウ蓄積。第四に、複数電源・需要リソースのアグリゲーションで、ポートフォリオとしての応札・約定。第五に、長期脱炭素電源オークション(蓄電池が対象電源)と組み合わせた、長期収益の安定化。各電力会社(TSO)ごとに公募スケジュール・入札仕様が異なるため、事業者は各社の公募動向の継続把握が必要です。
2030年に向けて、調整力公募と需給調整市場の関係は進化が続きます。需給調整市場本格運用の定着に伴い、市場での調達が主流化する一方、特定の地域・時期・需要パターンに対応した個別公募は継続的に実施される見通しです。再エネ大量導入下での調整力ニーズ増加、商品設計の継続見直し、地域間連系線運用拡大、需要側リソース統合、AI予測・最適制御の進化など、多面的な進展が続きます。蓄電所事業者にとって、調整力公募・需給調整市場の両チャネルでの収益最適化、TSOとの中長期関係構築が、事業の安定性・成長性を左右する重要要素となります。
欧州(ENTSO-E・EU電力市場)・米国(FERC・各ISO/RTO)・豪州(AEMO)・中国・韓国等の海外電力市場における同様制度の動向把握が、日本の制度設計改善の参考として重要です。グローバル機関投資家・ESG投資ファンド・グリーンファイナンス機関の参入拡大、IFRS S2・TCFD等の情報開示基準対応、24/7マッチング・カーボンプライス連動の本格化が、市場機能の高度化を駆動します。蓄電所事業者は、業界団体・規制当局との対話に加え、海外動向の継続把握・国際的な業界連携への参画が、戦略上の重要要素となります。
主な出典
- 一般社団法人 電力需給調整力取引所「需給調整市場とは」
- 一般社団法人 電力需給調整力取引所「取引規程(需給調整市場)」2026年7月1日実施
- 一般社団法人 電力需給調整力取引所「組織概要」